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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.04.25

【Report】第3回日本アプライド・セラピューティクス学会

 日本アプライド・セラピューティクス学会の第3回学術大会(大会長・緒方宏泰明治薬科大学名誉教授)が4月21日,22日の2日間,東京・板橋区の日本大学医学部で開催されました。
 今回のテーマは「標準薬物治療を実践しよう」で,同学会が発足当初から掲げる科学的・合理的な薬物治療の実践を直接のテーマとして提示したものです。
 シンポジウムや講演では,随所で薬剤師の「責任」が言及され,スキルや知識重視の印象が強かった薬剤師の,意識の転換をうかがわせる内容となりました。

プロフェッショナルとしての薬剤師の姿を見直し

 冒頭にテーマ講演の演者として登壇した網岡克雄氏(金城学院大薬学部教授)は,標準薬物治療を遂行するために必要な,プロフェッショナルの意識と行動を中心に講演しました。
 網岡氏は,プロフェッショナルの始まりである神学,医学,法学の共通点について,①人が対象,②苦悩や困難の解決が目的,③専門的な知識・技能が必要――と紹介しました。そのため,プロフェッショナルには自律・高い倫理性が要求されるとし,これらは薬学も同様であると強調しました。
 さらに,プロフェッショナルに求められるのは説明責任だと語り,患者に対してだけでなく,社会に対しても「なぜそれを行ったか説明できないといけない」と指摘。同時に行為に対して責任を取ることだと述べました。

網岡氏

薬剤師に責任をどう教育するか

次世代薬剤師に求められるのは「謎解き能力」

 シンポジウム「薬物治療に責任を持てる薬剤師の教育を考える」で狭間研至氏(ファルメディコ株式会社)は,次世代の薬剤師に求められるのは「謎解き能力」であると語り,薬物治療を受ける患者の状態をみて,何が起きているか薬学的に判断し,医師の処方に反映させてほしいと求めました。また,自らが全国で行っているフィジカルアセスメントの研修も,患者の状態を把握するための手段の一つだとし,アセスメントを「目的」と取り違えないよう注意を求めました。
 薬剤師の間で関心が高まっている「共同薬物治療管理」(CDTM)については,今後の医療のあり方を考えるうえで参考になるものとの認識を示しながら,「米国のCDTMをそのまま導入することは難しい」とし,人によりイメージがまちまちな「CDTM」という言葉の使用を避け,「共同薬物治療管理」と呼びたいとの考えを示しました。

薬剤師に求められる能力は診断でなく正常・異常の聴き分け

 同シンポで,薬学生に患者シミュレータなどを用いたフィジカルアセスメント実習を行っている徳永仁氏(九州保健福祉大学薬学部)は,実習で行っている聴診の目的について,「正常音と異常音の違いを理解すること。異常音を聴き分けて診断することではない」と説明しました。同大学で開発しているシミュレータ用のシナリオも,医薬品の副作用として生じる症状が中心となっており,医薬品安全を中心とした「薬剤師の臨床対応能力」を養成するものだとしました。

シンポジウム「薬物治療に責任を持てる薬剤師の教育を考える」

病棟業務実施加算は医療スタッフへの働きかけを評価

 特別講演「医療保険の視点からの薬剤適正使用」で,吉田易範氏(厚生労働省保険局医療課薬剤管理間)は,4月の診療報酬・調剤報酬改定の意図などについて解説しました。
 薬剤師に関する診療報酬改定で注目される「病棟業務実施加算」について吉田氏は,「薬剤管理指導業務は患者に近いところでの薬剤師の仕事を評価したもので,一方の病棟業務実施加算は医療スタッフに働きかけて,医薬品安全や医師などの負担軽減を図るもの」と説明し,これまでも病棟で行われてきた業務に対し,報酬面の評価を与えたものと述べました。また,改定に関する通知のなかで「医政局長通知も病棟業務ですと示した」と述べ,2010年4月の医政局長通知で示された,プロトコルにより医師と薬剤師が薬物治療を管理する取り組みの進展に期待しました。
 また,薬剤師の今後の課題としては,スイッチOTC薬拡大への対応を求めました。セルフメディケーションが可能か受診を勧めるかの判断は難しいとしながら,「薬剤師が指導して(生活者が)自ら治せるなら,病院にかからなくていい」と指摘。「薬剤師にきちんと対応してほしい」と期待しました。

薬物治療の標準化に薬剤師は「医師と話を」

 シンポジウム「標準薬物治療の実践を妨げるものは何か?」で,指定発言者としてコメントした磯部総一郎氏(医薬品医療機器総合機構審査マネジメント部長)は,薬物治療を含む医療の標準化が「日本の医療のすべての問題だ」と指摘し,その問題意識を背景に同氏が取り組んできたDPCのデータなどを活用して,医療技術の標準化が進むことを期待しました。
 薬物治療の標準化に向けては,「まずデータをとること」と語り,DPCなどで得られるデータを基に「このグループにこの薬の投与は考えられない,というものをどう是正するか」を試行していく必要性を示しました。
 また,同様の取り組みは病院内,病院間だけでなく地域医療でも必要であることを指摘し,高齢者の薬物治療を例に「医師間の処方のバラツキを(地域の薬剤師が)いっしょに勉強して,(標準と)外れた処方をする医師がいれば,それが患者の状態によるものかミスによるものかを医師と話し合う」などの取り組みを提案しました。
 さらに,医師間の連携も進んでいない現状を引き合いに,磯部氏は「顔を合わせたことがない者どうしでは難しい。いっしょに勉強したり仕事をする経験が必要だ」と述べ,医師と薬剤師の間でも「仕事の議論ができる環境作りでしか(連携不足の)問題を解決できないのではないか」との認識を示しました。

手帳を通じた情報共有の提案相次ぐ

 同シンポジウムでは,薬物治療の標準化に向けて,医師と薬剤師の情報共有の重要性が示されましたが,その手段としてお薬手帳の活用を求める意見が相次ぎました。 医師の立場から講演した志賀剛氏(東京女子医科大学病院循環器内科)は,処方箋だけの情報共有の限界を指摘。薬剤師が店頭で患者と接して気づいたイベントについて,「一言でいいのでお薬手帳にコメントを書いてほしい」と求めました。
 また,質疑応答のなかでは,処方意図に不明な点がある場合の薬剤師の対応方法として,質問に立った医師から「お薬手帳に『これでいいですか』と書いてくれれば,医師からも返事が書ける」との指摘もあり,薬剤師からの積極的な問いかけを求める声も上がりました。一方で,処方箋のコメント欄に医師から積極的に処方意図を書き加えることも一案として示されました。

「標準治療を妨げる薬」への対応で議論

 また,同シンポの質疑応答では,医薬品のなかには標準治療の妨げになるものもある,との指摘がみられ,フロアと演者で意見交換が行われました。
 質問に立った増原慶壮氏(聖マリアンナ医科大学病院薬剤部長)は,標準的な薬物治療が確立した分野で,有効性・安全性の確立していない新薬が「エビデンスを崩している」と批判,抗凝固薬の新薬で死亡例なども出た例をもとに演者らの見解を求めました。これに対し志賀氏は「(ダビガトランを評価する)日本循環器病学会の緊急ステートメントには,全員がアグリーしているわけではない。指摘を持ち帰って議論したい」とコメントしました。
 また,増原氏はエビデンスがはっきりしない薬を「退場」させる方法はないかと質問。これに対し磯部氏は「エビデンスがないことを証明するのは難しい」とし,薬事食品衛生審議会の医薬品再評価部会での議論の対象となりうる根拠を示す必要があるとの見方を示しました。

シンポジウム「標準薬物治療の実践を妨げるものは何か?」

セルフメディケーションに求められる薬剤師の判断力

 シンポジウム「これからのセルフメディケーション」では,地域医療のなかでセルフメディケーションが果たす役割などが話し合われました。
 安田幸一氏(ぼうしや薬局)は,休日夜間診療所の輪番対応で調剤を行っている経験をもとに,いわゆる「コンビニ受診」が増える現状に対し,セルフメディケーションで医療体制の崩壊を防ぐ必要性を指摘しました。
 その際に,安田氏は薬局店頭でトリアージする難しさを認めながら,「トリアージに求められるのは判断力。知識や技能だけでは判断はできない。『何とかしなければ』という姿勢が必要」と強調し,薬剤師の意識づけの重要性を指摘しました。
 一方で,トリアージのスキルを身につけるために,同薬局では書籍などを用いた研修を行い,知識の向上を図っていることも紹介しました。(MK)

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