ユーザー登録
ID・パスワードを忘れた方はこちら
ご利用について

MagPlus+


MagPlus+イメージ

MagPlus+

このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2013.05.21

「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」の
拭えない違和感

●マスコミの関心も高い検討会ですが……


 厚生労働省が開催する「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」(座長・遠藤久夫学習院教授)もそろそろ議論が大詰め,ということで第8回(5月10日)と第9回(5月16日)の会合を傍聴しました。
 薬業界の関心も高いテーマで,開催のたびごとに内容が報道されていましたので,概要は理解していたつもりでしたが,いざ傍聴してみると「?」だらけの議論。今回は,この検討会を傍聴して感じた「違和感」についてお伝えしたいと思います。

医薬品販売とは誰が何をすることなのか

 まず感じたのは「何を議論しているのか」に関する疑問。第8回会合ではネット販売を行う場合の具体的な要件が事務局からの叩き台として提出されたのですが,その叩き台を読んでも,議論を聞いても誰が何をするためのルール作りなのかが頭の中で明確になりませんでした。
 そもそも,医薬品販売は薬剤師あるいは登録販売者といった「専門家」(薬事法では医薬関係者となっています)による行為であるという共通理解が,検討会の構成員のなかで成り立っていないなかでの叩き台の提案だったのではないでしょうか。

なぜ専門家が関与するのか

 医薬品販売は、需要者に販売することが適切かどうか、専門家の判断が必要な行為であり,専門家の判断は需要者の状況によって個々に異なるものであって,画一的な判断はあり得ない,というのが私の理解です。でなければ,専門家の関与はそもそも必要ないはず。医薬品販売の可否を個別に判断し,その判断に対して責任を負うのが専門家ではないでしょうか。
 ですから,判断のなかには「この人に売ることは妥当ではない」も含まれるでしょう。妥当ではない場合に行われる「受診勧奨」は,専門家の判断の一つとして行われるものです。
 薬事法で専門家に求められている需要者への「情報提供」には,「あなたに売ることは妥当です」,「あなたに売ることは妥当ではありません」という情報も含まれるはずですから,医薬品販売のスタートは情報提供することではなく,その前段階として専門家による判断が存在するはずです。

違和感の原因

 しかし,専門家による個別の判断が必要な行為を,そもそも薬事法に定めることができるのでしょうか。私が検討会を傍聴して感じた違和感は,そこにありました。
 専門家の行う仕事の中身を,販売業者の取り締まりの法律(薬事法)で規定しようとしている。だから議論がかみ合わないのではないでしょうか。
 この違和感を他の法律で例えると,「医師の診察技法や診断基準を医療法に定めようとしている」感覚,といえばわかりやすいでしょうか。医療法にそれが記されていないのは,「医療法の範疇ではないから」だというのはおわかりいただけると思います。
 同様に,薬事法にそれが記されていないのは,薬事法で定める範囲ではないからでしょう。逆にいえば,薬事法の規定だけが医薬品販売という行為を定めるものではない,ということになります。医薬品販売という一連の行為のなかで,販売業者に求められる要件を定めたものが薬事法なのではないでしょうか。

個別の判断が必要なところまで一律にルール化しようとしていないか

 検討会では,専門家による個々の判断が必要な行為までルールに規定しようとしているようにみえます。たとえばリスクの高い医薬品の販売時に,需要者への目視,接触が必要かどうかは,本来は専門家が需要者個々に判断するものであって,医薬品のリスクや含有される成分によって一律に決められるものではないでしょう。そこには需要者個々の状態が含まれていないからです。
 需要者の状態をどこまで把握すれば販売の可否を判断できるかについても,薬事法のルールで定めることができるのでしょうか。それは専門家の判断による部分ではないのでしょうか。
 どのような情報を収集したうえで販売の可否を判断するかは,専門家の責任の範疇だと私は考えます。さらに,その需要者に合わせてどのような情報を提供するかも専門家の判断が必要でしょう。

医薬品販売のルールに求められるもの

 医薬品販売という行為にあたり,専門家が適切な判断を下すことのできる環境が必要であり,そのために何が販売業者に求められるのかを規定するのが薬事法の役目,医薬品販売のルールに求められる内容ではないでしょうか。薬局・店舗であれネットであれ,医薬品販売のルール作りは,薬事法の役目を明確にすることがスタートラインになるはずです。

専門家の判断に委ねるリスクも想定されますが

 こういう議論をすると,医薬品販売という行為が,専門家の判断に委ねる部分が大きいことを認めることになるので,薬局・店舗でもネットでも問題が生じる可能性はあります。たとえば,まったく需要者を見ずに「私は売っていいと判断した」と言い出す専門家がいれば,それを規制することは困難かもしれません。
 そこで,専門家の判断が暴走したときの歯止めを販売業者に求めたり,あるいは販売業者が専門家の判断に不当に介入しないよう制限を設けることは必要だと思います。

検討してほしい専門家の責任

 医薬品販売に限らず,判断には責任が伴います。専門家が販売の可否を判断することによって生じる,需要者個々に対する責任を薬事法で規定できるのか,という点もひっかかるところです。薬剤師法など別の法律が必要でしょうか,あるいはプロフェッショナルの自律性を重視すべきなのでしょうか。
 ともあれ,専門家の責任は薬事法に定めるべき販売業者の責任とは別個に考える必要があると思います。
 医薬品販売に伴う専門家の責任の明確化も,医薬品販売のルールを定める議論に合わせて検討されることを期待します。(MK)

会社案内
利用規約
お問い合わせ