ユーザー登録
ID・パスワードを忘れた方はこちら
ご利用について

MagPlus+


MagPlus+イメージ

MagPlus+

このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.03.15

【インタビュー】薬剤師による疾病管理が医療計画の基本骨格に
神奈川県「医療のグランドデザイン」まとまる

高橋洋一神奈川県薬剤師会常務理事

 さる3月5日に,神奈川県「医療のグランドデザイン策定プロジェクトチーム」(座長・大道久日本大学医学部客員教授)が最終報告書を黒岩祐治知事に提出しました。グランドデザインは,2012年度からの第5次医療計画の策定にあたり,県の医療体制整備の基本方針を示す目的で策定されたものです。
 この報告書で注目されるのが,「疾病管理」を薬剤師が行う考えが盛り込まれたこと。院内や地域(在宅)でのチーム医療推進の観点から,他職種との役割分担を考えるうえで薬剤師が疾病管理の役割も担うことが求められたものです。
 同プロジェクトチームに委員として参加した,神奈川県薬剤師会の高橋洋一常務理事にその意義や今後の方向性などについてインタビューしました。

医師委員などの異論もなし

――グランドデザインに薬剤師の「疾病管理」を盛り込んだ経緯は。

高橋洋一氏(以下,高):これからの薬剤師のあり方を考えるうえで,6年の薬学教育を受けた薬剤師が医療現場で何をするのか,と考えた場合,病院薬剤師なら「疾病管理」を今からやらなければいけない,と考えました。プロジェクトのなかでも,6年間薬学を学んだ薬剤師が何をするのか,と他の委員からも聞かれました。そこで,4月の診療報酬改定の方向性(病棟薬剤師のチーム医療に対する評価)もにらんで,提案しました。
 病院薬剤師は,大学病院を中心にいい取り組みをしています。それを前提として,医療計画で薬剤師が疾病管理を行うと書くことが重要だと考えました。
 プロジェクトには医師会や病院など医師の委員もいますが,意外に反対もなく「もっとやればいい」という雰囲気でした。医師の委員は大学の学部長クラスの方も多く,海外の事情に詳しい。薬学が6年制になって,薬剤師が次に何をすべきなのかがわかっているのかもしれません。

「医療のグランドデザイン」での記述内容

(ウ)  職種間連携、職域拡大、チーム医療推進
①  背景・現状
 医療の高度化、専門化が進む中、質が高く、安全・安心な医療を求める患者・家族の声に応え、医療の質を高め効率的な医療サービスを提供するためには、急性期、回復期、特定の診療領域、在宅医療など様々な医療の場面で、多種多様な医療従事者が各々の高い専門性を前提に、連携して患者の状況に的確に対応した医療を提供するチーム医療の推進が求められている。
 薬剤師などの職種では、専門薬剤師など専門性に関する認定制度があり、医療職が自律した高い専門性を発揮するためには、このような認定制度の活用等が必要であるが、現行のチーム医療体制の中では、認定を得た専門性の高い人材が十分に活用されているとは言えない。
 また、チーム医療の推進に伴い、看護師、助産師、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション関連職種及び管理栄養士など、各職種の専門性の更なる活用や職域拡大が求められており、救急救命士の業務範囲の拡大、助産師の専門性を活用した助産師外来・院内助産所の導入、特定の看護分野の知識・技術を深めた認定看護師や専門看護師による質の高い看護の提供などの動きがある。
 
②  課題
 チーム医療の推進には、治療の効果をより高くするための医療面のサポート、専門的機能のサポート、効果的な薬剤の使用等についての高い専門性を持つ医療人材の養成・育成が必要である。加えて、専門性に関する認定制度のある職種については、認定資格取得の推進が課題となっている。また、各医療職が専門性を発揮するためには、同一職種間・異職種間での相互理解や連携の促進が必要である。
 各職種の職域拡大に関しては職種ごとの検討が必要になるが、救急救命士については、行える行為が限定列挙されており、現行法令ならびに現在の教育研修体制では病院等での活用が限定的という課題がある。また、薬剤師については、従来の調剤行為を中心とした業務に加え、疾病管理の分野への連携した業務拡大が求められている。
 
③  方向性・取組み
(チーム医療推進の方向性)
 チーム医療は、医療提供施設と在宅とを区別して推進していく必要がある。特に、在宅におけるチーム医療推進のために、介護サービスとの連携を踏まえ、口腔ケアを行う歯科医師、薬歴・疾病管理を行う薬剤師(薬局)、訪問看護師及びケアマネージャーなど在宅医療に関わる各職種の役割分担を明確にしていくことが必要である。 


――ここでいう疾病管理というのはどのようなイメージなのでしょうか。

高:委員からも「医師と薬剤師では疾病管理の概念が違うのではないか」と聞かれたので,薬学の「ファーマシューティカルケア」の概念を医学用語に当てはめた場合に,一番近いのが「疾病管理」だと説明しました。患者の管理の仕組みとして,米国にはCDTM(医師と薬剤師の共同による薬物治療管理)という考え方がありますが,それはそのまま日本に持ってこられるかわかりません。

医師の診療内容を確認するのも薬剤師の役目

――ファーマシューティカルケア(PC)の概念とはどのようなものでしょうか。

高:日本でのPCの概念の議論はこれからでしょう。6年制薬学を卒業して仕事について何を目指すか,私たちがPCを作り上げていかなければいけません。
 米国のCDTMは参考にはなるでしょうが,そのまま実践できるかは疑問です。私は薬剤師というのは医師の治療方針に対してもっと自由だと思っています。
 薬局で仕事をしている立場としては,薬剤師はもっと独立した責任で仕事をしていくことになるのかな,と思っています。ときには医師の方針と合わないこともある。CDTMのプロトコルや「包括的な指示」の外に出る可能性もある。CDTMから一歩進んでいくことも考えなければいけないと思います。

――具体的にはどういったことでしょうか。

 薬剤師が疾病の標準的な治療やガイドラインを理解していて,医師がそれに沿って検査をしているか,患者にアドバイスをしているかなど確認も必要でしょう。医師の診療に対する姿勢もわかっていないといけない。
 薬局の薬剤師が患者をみて,かかりつけ医に行くべきか病院に行くべきか判断するために(医師に対し)川上に位置し,PCを行う薬剤師がその役割を担うことになるでしょう。

――薬局の薬剤師に対してグランドデザインでは,「薬歴・疾病管理を行う薬剤師(薬局)」が役割分担を明確にして連携すべきとあります。

高:もっと薬剤師が主体的に動いて,さまざまな連携をとるべき。医療関係者,介護関係者だけでなく,近隣のさまざまな人々と連携をとることが必要です。
 また,グランドデザインの議論では,初期救急のトリアージ役として,24時間患者対応が要件となっている基準調剤加算の対象薬局も対応できる,といったのですが,それは盛り込まれませんでした。

電子お薬手帳推進も盛り込まれる

――グランドデザインでは,電子お薬手帳の導入も盛り込まれました。

高:知事の肝いりで医療情報の電子化を進めることになっており,電子お薬手帳は先行して進められる予定です。ただ,電子お薬手帳が大手薬局チェーンの患者囲い込みの道具として使われたくない。
 電子お薬手帳は,日本中の薬局が一歩川上化するツールとして利用できればいいと思います。薬局で相談してもらうときに,手帳で服薬の履歴がわかることが踏み込んだ判断・指導には重要なので,お薬手帳にはもう少し詳細に書いてあるといいですね。

現場の取り組みを積み上げてPCの具体化を

――グランドデザインに薬剤師の疾病管理が盛り込まれ,神奈川県の薬剤師として今後,どういったことに取り組んでいくお考えでしょうか。

髙:せっかくグランドデザインに盛り込まれた内容を,今後地域医療計画で具体化していく必要があります。ただ,その内容はがんじがらめにするのでなく,県内各地の病院の規模・役割に応じて現場で取り組んでいることを,下から積み上げていく段階へと進むでしょう。いまできているところの取り組みが,どこでもできるように普及させていくことが重要で,県薬剤師会・病院薬剤師会の学術大会などがその役割を果たし,日本独自のPCを作り上げていくことになります。
 社会保障制度は年々厳しくなっています。しかし,制度を守る,政治力を上げる,といった以外の道もあるのではないでしょうか。薬剤師が先んじて変わっていく必要があると感じます。

――ありがとうございました(MK)

会社案内
利用規約
お問い合わせ