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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.08.02

【Report】第5回神戸薬科大学シンポジウム

 神戸薬科大学エクステンションセンター(事業委員長・太田光熙教授)の第5回シンポジウムが、神戸市の同大学で開催され,在宅医療と薬剤師の関わりについて医師・薬剤師・看護師による議論が行われました。

未来の日本の縮図・夕張での在宅医療を紹介

「ささえる医療」に薬剤師の力を求める

 在宅医療と予防医療を超高齢社会の医療の柱と位置づけ,北海道・夕張を中心に活動するNPO法人「ささえる医療研究所」の村上智彦理事長は,薬剤師として臨床に携わった経験も踏まえ,薬剤師への期待を語りました。
 村上氏は予防医療や健康維持が医療費増嵩のなかで重要な意味をもつなかで,「医師は病気を探す教育を受け、薬剤師と保健師は人を健康にする教育を受けているが、薬剤師はそれを現場で活用していない」と指摘し,薬剤師が予防医療の分野で知識や経験を活かすよう求めました。
 一方,薬剤師の問題点として,「薬剤師は患者の『物語』を理解せずに服薬指導してコンプライアンスを低下させる」と苦言。患者の「物語」を治療のベースに据える「nalative based medicine」の考え方を理解するよう求めました。とくに,「在宅では、患者が自分の『物語』を医師や看護師には話さないが,薬剤師には話すので,それを医療チームで共有したい」と語り,薬剤師に対する患者の信頼感を活かすよう求めました。
 これらを踏まえ,「なぜ薬剤師は医師の行かない予防や在宅医療の分野に行かないのか。予防薬の処方は薬剤師がやるといえばいいのになぜやらない。職域を拡げなければ薬剤師は余る。6年制薬学を出た将来の薬剤師が困ることになる」と熱く語り,現場薬剤師の奮起を促しました。

必要性の議論は終わり,今後は有効性の検証へ

 アインファーマシーズ在宅医療部の山口俊司氏は,夕張で村上氏らと在宅医療に取り組んできた経験を踏まえ,在宅医療への考え方を示しました。
 山口氏は冒頭,在宅医療での薬剤師の役割について,「必要性を議論する時代は終わり,有効性を議論する時代」だと強調し,薬剤師が在宅医療に関わることでどのようなアウトカムをもたらすかを研究し,論文などにまとめていくことで,薬剤師の役割を明確にしていく考えを示しました。さらに,研究成果を踏まえてPDCAサイクルを動かし,よりよい在宅医療に向けて改善が必要だとしました。
 同社は夕張での在宅医療の取り組みについて,北海道薬科大学と提携して共同研究などを行っており,そこで薬剤師が介入するメリットを学術的に検証していることも紹介しました。
 また山口氏は,「処方箋が出てから疑義照会するのでは、患者は最良の医療を最短で受けられない」と処方箋ありきの薬剤業務の流れに疑問を呈し,薬剤師が患者を訪問し,次回処方の前に患者のコンプライアンスをチェックし医師に情報提供するよう、夕張の(在宅訪問先の)施設でテスト運用を開始したことを報告しました。医師と薬剤師による共同薬物治療管理の考え方を取り入れた取り組みとして注目されます。

●左から村上氏,山口氏

在宅緩和ケアに薬剤師の参画が必要

病院と在宅の緩和ケアは違う

 福井・水仙薬局の木村嘉明氏は,大学病院で緩和ケアを行い,薬局でも在宅医療で緩和ケアに携わる経験をもとに,在宅緩和ケアで薬剤師の介入がもたらすメリットを報告しました。
 同薬局は福井大学医学部付属病院の前に位置し,同病院を退院して在宅療養に移る患者への訪問に積極的に取り組んでいます。在宅患者への関わりは退院時共同指導から始まっており,そこでプロブレムリストを作成して在宅での指導や評価に活用しています。
 病院と在宅の双方で緩和ケアに携わる経験から,木村氏は「痛み」の緩和について病院と在宅では違いがあるのではないかと指摘しました。木村氏は「病院では身体的苦痛を取り除けば良かった。(在勤当時は)そういう時代だった。しかし在宅と病院は何かが違う。在宅では身体的苦痛だけでなく社会的苦痛や精神的苦痛など他の苦痛も取り除けるのではないか」と語り,緩和ケアの目標であるトータルペインの緩和に,在宅医療が適している可能性を指摘しました。

患者のしたいことができる緩和ケアに

 東京女子医科大学病院薬剤部の伊東俊雅氏は,在宅緩和ケアに取り組む薬局と,病院との連携の工夫について紹介しました。
 東京では在宅医療に対応できる薬局が少ないこともあり,薬剤部では在宅医療に対応できる薬局をデータベース化して,患者が選ぶ際の参考にしてもらっています。また,在宅患者を引き受ける薬局と情報を連携する観点から,薬剤情報をデータベースソフトのFileMakerでデータベース化し、薬局と共有していることを紹介しました。しかし,退院時共同指導から参加する薬局が少ない現状についての問題も指摘しました。
 在宅緩和ケアに薬剤師が関わる意味について伊東氏は「患者がやりたいことをできるよう,薬物治療で支援すること」と位置づけ,過去の経緯や現在の評価だけでなく,患者の未来を予測することが薬剤師の大事な仕事になる,と述べました。
 さらに,薬剤師に求められる能力として伊東氏は,「臨床薬学診断」と副作用のアセスメントをあげました。「臨床薬学診断」では,①処方薬の処方理由の理解,②処方されている薬剤の特徴の理解,③患者が許容できる副作用の範囲の判断――の能力が求められるとし,緩和ケアでも同様であることを支持療法における薬剤の選択を例示しながら説明しました。
 また,オピオイドの使用については,「日本は麻薬使用量が少ないといわれるが、細かい用量調整を行っているのは日本だけ,他の鎮痛薬の併用も進んでいる。薬剤師は過量投与にならないよう見張るのが仕事」と述べ,風潮に流された薬物治療にならないよう対応を求めました。

●左から木村氏,伊東氏

在宅のチーム医療に向け地域で定期的な勉強会を開催

地域のリーダーとなる薬剤師も必要

 神戸市垂水区で開業し在宅医療も行うなかむらクリニックの中村治正氏は,医師の立場から地域連携に取り組んできた経験を紹介しました。
 同区では在宅医療に取り組む医師・訪問看護師・ケアマネジャーに薬剤師も加わった定期的な勉強会の場を設けるなど,地域での連携に力を入れています。しかし,薬剤師による在宅訪問の必要性を感じない,具体的な方法がわからないという勉強会参加者からのアンケート回答も多かったことから,同会で区内の在宅訪問可能薬局リストを作成して医療機関や医師会,訪問看護ステーションに配布するなど,薬剤師による在宅訪問の認知度向上に取り組んでいます。
 中村氏は薬剤師に対し,在宅医療に取り組み人材の養成や地域のリーダーを育てる必要もあるのではないか,と指摘するとともに,「薬剤師にとって在宅医療は転機になると思う。積極的に入ってほしい」と期待しました。

薬剤師の訪問による患者の経済的負担への懸念も

 同じく垂水区で訪問看護を行っている金田永子氏は,退院時共同指導も行えないまま退院した患者に対し,薬剤師と同行して在宅訪問し薬物治療の問題点を解決していった事例を紹介し,在宅での薬物治療の質の向上に薬剤師が有効であることを示しました。
 一方,薬剤師による在宅訪問は患者の経済的な負担にもなることから,「どの時点で薬剤師に入ってもらうかが課題」と述べ,常に薬剤師が訪問することの難しさも指摘しました。

●左から中村氏,金田氏
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