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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.09.28

【Report】リスコミでマスコミの課題浮き彫りに 日本社会薬学会


 三重県鈴鹿市の鈴鹿医療科学大学で9月15・16日,日本社会薬学会第31年会(年会長・川西正祐同大学薬学部長)が開催されました。テーマは「新たな社会薬学の発展と展望」で,シンポジウムのほか140題を超えるポスターセッションなどが行われました。

ポスター発表数は過去最多となった

国民へのリスクコミュニケーションで報道姿勢など問題提起

 シンポジウム「安全性情報を,どう評価しどう伝えるべきか」は,リスクコミュニケーションの観点から医薬品の安全性情報の収集・評価・伝達のあり方を議論しました。

俵木氏(左)と小島氏(右)


患者と医療関係者の情報タイムラグは縮小している

 このなかで厚生労働省医薬食品局安全対策課の俵木登美子氏は,テラビック(テラプレビル)の副作用情報について,行政が公開した翌日の朝刊には新聞記事が記載されるなど,患者側が情報を入手するまでのタイムラグが小さくなっていることを指摘。PMDAが医療関係者向けに行うメールサービス「メディナビ」などを活用した,医療現場への迅速な情報提供が必要と語りました。
 また,俵木氏は重篤な低カリウム血症の副作用でブルーレターが出たランマーク(デノスマブ)について,初めて患者向け情報提供資材も作成したことを挙げ,リスクコミュニケーションの手段が多様化していることを示しました。また,公開した翌日には患者会のHPで掲載されたことにも触れ,行政からの情報公開に患者会が迅速に対応していることも紹介しました。

不正確な報道にマスコミ内部から苦言

 同シンポでは,毎日新聞編集委員の小島正美氏が,医療関連のマスコミ報道の在り方について,具体例を挙げながら問題提起しました。
 HPVワクチン接種の副反応報道では,①注射による副反応であり医薬品成分が原因ではないことが不明確,②失神を強調し安静の必要性の言及が少ない,③発生頻度の記述がない記事が多い――などの問題を指摘。さらに,HPVワクチンによる副反応は,月例の「安全性情報」による情報公開だったにも関わらず,厚労省がとくに調査し発表した重大な問題との誤解を与えかねない報道だったと指摘しました。
 小島氏はこれらの問題が医療に関する報道の基準がないためと指摘し,定期的に出される安全性情報などについては,記事の書き方のモデル作成も必要ではないかと提唱しました。
 また小島氏は,コチニール色素によるアレルギーの問題では,消費者庁がプレスリリースの配布のみで会見は行わず,配布も夜10時だったなど,行政の情報公開のあり方も問題視。リリースを受けた記者が大きな問題ではないと解釈し,当初は記事にするつもりがなかったことも明らかにしました。

実務実習の質の向上で議論

 シンポジウム「6年制薬学教育―『薬剤師教育』の現状と課題」で名城大学薬学部の長谷川洋一氏は,実務実習を終えた学生からの調査結果を報告し,薬学生に対する指導薬剤師の影響力の大きさを示しました。
 長谷川氏は,実務実習が学生の「自分がなりたい薬剤師像」を見つける場でもあり,「学生にとって,患者との出会いよりも薬剤師との出会いのほうが(影響が)大きいのではないか」と指摘しました。さらに長谷川氏は,「学生は指導薬剤師の背中を見て学ぶ」とし,①学生に“気づき”を与える,②実習を作業で終わらせない――指導薬剤師の確保が重要と指摘。指導薬剤師の質の担保のための更新制や,薬学生の実習成果を評価するアドバンストOSCE,薬剤師国試での技能評価なども今後の課題に挙げました。

実習受け入れ側からも課題を提起

 同シンポで伊勢赤十字病院の谷村学氏。実務実習を受け入れた病院の指導薬剤師へのアンケートから実習の課題を指摘。病院と薬局の業務内容の違いを反映した病院実習・薬局実習のSBOs見直し,受け入れ施設のレベル均一化を挙げるとともに,大学にもPBLの充実などを求めました。
 また,三重県薬剤師会の平岡伸五氏は,薬局実務実習で個々の薬局では対応しづらいSBOsに県レベルで合同実習を行っていることを紹介しました。実習導入時には薬剤師の倫理などを教える合同オリエンテーションを実施し,実習生の交流にも役立っているとしました。
 さらに薬局実務実習半ばには,災害医療や在宅医療,医薬品以外の販売など,薬局間で業務に濃淡のあるSBOsについても合同研修を行っていることを紹介し,各施設にちらばる実習生が集まることで,お互いが刺激しあい中だるみを防ぐ効果もあることを指摘しました。

薬学生自ら実習を振り返る

 同シンポで鈴鹿医療科学大学5年生の藤戸淳夫君は,今年行ったばかりの病院実務実習での経験を紹介し,病棟で受け持ち患者に毎日接することで責任感が生まれたこと,最初はよそよそしかった患者が最終日には「ありがとう」といってくれた喜びなどを語りました。
 反省点としては,実習中に指導薬剤師や他職種への報告が足りなかったことを挙げ,「何を伝えるべきかわからなかったのが原因。わからないことをわからないといえる勇気も大切」と振り返り,「チーム医療にも通じることではないか」と分析しました。

「6年制薬学教育」のシンポジスト

CDTMもバイタルサインチェックも「手段」であって「目的」ではない

 日本社会薬学会教育講演は,ファルメディコ株式会社・狭間研至氏が「薬剤師が取り組むバイタルサイン~CDTMに向けた戦略的アプローチ」と題し,これからの薬剤師像について期待を語りました。
 狭間氏は,講演テーマであるバイタルサインチェックやCDTM(共同薬物治療管理)を学ぶことが,薬剤師の「目的」にならないよう注意を促し,「バイタルサインチェックは手段であり,目的は医薬品の適正使用と安全確保。ミニ医者になってほしいわけではない」と自身の考えを述べました。
 さらに狭間氏は,「米国にCDTMがあると聞くと焦って,それを勉強することが目的になってしまう」と現状を懸念。「目的は医師と薬剤師が共同で薬物治療の戦略を持つこと」であるとの考えを強調しました。

狭間氏

健康食品は広告の規制も必要

 シンポジウム「『健康食品』と薬剤師」では,食品衛生法,健康増進法,JAS法など規制が複雑な健康食品について,弁護士らが消費者の安全確保の観点から議論しました。
 議論では,現行は包装への表示のみ規制されており,広告にも規制が必要との意見が出されました。
 また,シンポのなかでは,健康食品に関する規制を統合する方向で議論が進められていることも紹介されました。しかし,利害関係者も多く,新設された消費者庁での調整が難しいことがネックになっていることが示されました。(MK)

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