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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.02.07

【Report】病院DIのこれからを模索 第4回JASDIフォーラム


 1月28日に,日本医薬品情報学会の2011年度第4回JASDIフォーラムが都内で開催されました。今回のテーマは「これからの病院DI業務はどこに向かい,何をすべきか」。進行役に虎の門病院薬剤部・林昌洋氏,演者に杏林大学医学部付属病院薬剤部・若林進氏,東京大学医学部附属病院薬剤部・大野能之氏,福井大学医学部附属病院薬剤部・中村敏明氏,市立敦賀病院薬剤部・荒木隆一氏,聖マリアンナ医科大学病院・上田彩氏が務めました。

院内独自のフォーミュラリーで安全確保を

 フォーラムの冒頭,林氏は医薬品の適正使用のために薬剤師の果たす役割として,病院独自のフォーミュラリー作成の重要性を挙げました。とくに安全性に新たな知見の得られた薬について,病院独自の安全対策も必要だと指摘。強い徐脈の発生で警告が追加された薬について,投与初期には入院を原則とした虎の門病院の例を紹介しました。

●座長の林氏

ハイブリッドな情報提供を模索

 若林氏はこれからの病院DI業務のキーワードとして,①紙と電子の情報のハイブリッド化,②育薬を意識したPMS,③医療情報のクラウド化への対応,④コミュニケーション--を挙げ,院内での取り組み内容を紹介しました。
 このうちコミュニケーションについては,病院のある東京多摩地区でDIに携わる薬剤師の集まりを主催し,薬剤師間のコミュニケーションをとっている例を紹介。院内外で孤立しがちなDI担当薬剤師が横に連携をとることで,お互いの情報交換を深めているとしました。
 また,ハイブリッドな情報提供については,医薬品医療機器総合機構(PMDA)が発信する「メディナビ」などを活用して,速報は電子,保存したい情報は紙媒体などの使い分けをしていることを紹介しました。

オシム監督型DIを目指す

 大野氏は「DIは現場のために何ができるのか悩んでいる」としながら,それぞれ1,000人を超える医師,看護師らへの情報の周知に模索する現状を報告。また,本来はDI担当だけでなく薬剤師個々がDIのスキルを高めるべきとし,それを支援する「ボトムアップ型」のDI業務への転換を意識していることを紹介しました。その新たなDIの姿については,元サッカー日本代表オシム監督に例え,「(現場の薬剤師が)走りながら考える。考えながら走る」ことを支援するDIでありたいと語りました。さらに,大阪成人病センター・丁元鎮氏の言葉を引用し,DIの目指すべきキーワードは,①現場薬剤師のナビゲーター,②アウトカム指向,③外への情報発信--であると強調しました。

添付文書に縛られない「実践医薬品情報」の構築求める

 中村氏は院内でDI業務専任の経験がない立場から,今後のDIへの期待を語りました。従来の医薬品情報は,業務管理のPDCAサイクルに例えると「P(Plan)とD(Do)しかなかった」と指摘。情報提供の結果,どう変わったかをチェック(C)し,次の情報を再構築する行動(A;Act)が必要になると述べ,それが「実践医薬品情報」だと位置づけました。
 実践医薬品情報の提供には,「添付文書に縛られる」薬剤師の発送の転換も求めました。例としてテイコプラニンの血中濃度を急速に高め抗菌効果を期待する負荷投与について,添付文書の負荷は時間がかかっており,投与量の設定も腎機能に応じた維持量をベースに設定していることを疑問視。福井大病院では独自プロトコルを設定して投与しており,こういった現場の医療実態に応じたDIの提供が重要になることを示しました。
 また,情報提供には「表現」も大事になると指摘しました。例として大規模臨床試験の結果を紹介し,大規模臨床試験はバイアスが小さく信頼できると思いがちだが,なかには併用薬ありのA薬群とB薬群の比較のはずが,「群」がとれてA薬とB薬の比較結果のような表現になっている例もあると指摘し,注意を促しました。

患者の医薬品安全は地域ぐるみで

 また中村氏は,患者の薬効・副作用のモニタリングに重要な各種検査値について,地域薬局の薬剤師もフォローアップできるよう,処方箋に検査データを印刷する仕組みを福井大病院で採用していることも紹介。これにより「副作用を予見するため,回避するためのDI」を実践しているとしました。

MRのセールストークにも批判的吟味

 荒木氏は,中小病院で薬剤師が医薬品安全に取り組む実例を紹介しました。昨年,重篤な副作用で死亡例も出たダビガトランについて,MRが初めてプロモーションに来た際,①血液検査でのモニタリング不要,②細かな用量調節不要,③ビタミンKを含む食事も制限不要,④CYPの代謝を受けない--などと宣伝したことに対し,①はモニタリングの指標がないため,②は調節の参考となるデータがない,④はCYPによらない相互作用もある--と考え,院内でダビガトランを使用した際に起こりうるリスクの予備調査を行いました。その結果,併用薬で相互作用の起こりうる患者をリストアップし,慎重に投与を開始することで,副作用症例の発生を少なくとどめることができたといいます。
 さらにダビガトランは地域の医院で外来処方されることも多かったため,県内の病院だけでなく地域薬局の薬剤師とも,メーリングリストなどで情報交換の場をもったことを紹介しました。

不適正使用の副作用被害をどう防ぐか

 添付文書の記載どおりに検査を行わず使用した薬剤で,発生した副作用に対して副作用被害救済基金が不支給の決定をする例があることが昨年末に公表されました。これについて荒木氏は,長期処方が進む現場では検査不実施のまま投与される例も多いことから,「DIがどう介入するか大きな悩み」と語りました。

DI本来の姿を求めて

 上田氏は医薬品情報担当薬剤師の横の連携が強い英国で勤務した経験をもとに,日本の病院でDI業務の改善に取り組むようすを報告しました。上田氏の勤務する病院では,薬事委員会に提出する資料の作成,処方オーダリングシステムの医薬品マスターデータのメンテナンスもDI担当薬剤師の役目。これらに多くの時間と労力を割く現状をいかに効率化して,診療の現場に対する情報提供を手厚くするかが課題だと語りました。
 また,良質なDIの提供には「良い本,良いデータベースありき」と述べ,できるだけ最新の情報にメンテナンスする大切さを強調しました。さらに情報を十分に吟味できるスキルを高める観点から,中堅薬剤師を対象に論文の批判的吟味能力を高めるための「ジャーナルクラブ」をDI担当薬剤師が行っていることも紹介しました。

新薬・ハイリスク薬の評価をDIが行う

 また,上田氏は事務仕事の多いDI業務からの脱却を目指し,採用した新薬や,いわゆるハイリスク薬の使用成績を調査する医薬品使用実態調査(Medication Use Evaluation)を昨年から行っていることを紹介しました。まだDPP-4阻害薬など対象は少数ですが,結果を薬事委員会に報告しています。

院内の医薬品使用をIRB,薬事委員会でコントロール

 各演者を集めた質疑応答のなかで,適応外使用へのDI担当薬剤師の対応に関する意見交換が行われました。若林氏は適応外使用に対する情報を院内情報誌で紹介したところ,保険審査担当の医師から保険適用上の問題があると抗議を受けた経験を紹介し,広く周知を図るのではなく個別の事例への対応にとどめるべきとの見方を示しました。一方,中村氏は医薬品安全の観点から使用を制限する方向で添付文書の記載と異なる使い方をする際には,積極的に情報提供していると語りました。林氏は,添付文書と異なる使用法を院内プロトコルとして採用する場合は,院内IRB,薬事委員会,キャンサーボードなどの組織でオーソライズすることが重要との見方を示しました。荒木氏は医師が適応外使用に興味を示すときには,MRが独自に情報提供している可能性も指摘。MRの院内活動への注意を促しました。

●フォーラムの演者
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