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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2013.06.18

改めて問われる4年制薬学のアイデンティティ
日本薬学会公開討論会


 日本薬学会(柴﨑正勝会頭)の公開討論会が6月13日,長井記念館で開かれました。テーマは4年制薬学卒業生に薬剤師国家試験受験資格を付与する薬剤師法の経過措置を延長することの可否について。
 柴﨑会頭が3月の日本薬学会年会の会頭講演で,措置延長を薬学会として検討することを表明し,これに対する反対意見もみられたことを受け,反対者の一人である遠藤浩良帝京大学名誉教授との公開討論という形式で議論の場を設けたものです。

●柴﨑氏(左)と遠藤氏

多様性のある薬剤師を輩出できる

 討論会では4年制薬学卒に薬剤師免許受験資格を与える目的について「多様性のある薬剤師の輩出が21世紀の薬学に重要」と語る柴﨑氏や,「いろいろな人に薬剤師免許取得の可能性を与えるのがなぜ悪いのか」との意見に対し,フロアから「4年制薬学に受験資格を与えるなら他学部でも(受験資格があって)いいという議論になる」との懸念や,「6年制の薬学科への学士編入の道もある」,「6年制に多様性があってもいい」,「6年制薬学の4年間の博士課程で研究マインドのある薬剤師を育てられるのではないか」などさまざまな意見が出されました。

基礎薬学の水準低下を防ぎたい

 柴﨑氏は4年制薬学卒に受験資格を与える2番目の理由として,「基礎薬学の水準低下を防ぎたいという気持ちもあった」と述べました。その背景として,製薬企業の研究職は6年制薬学卒を採用していないと指摘し,4年制薬学の基礎分野での重要性を指摘。「基礎研究は他学部とコンピート(競争)するが,その分野では6年制薬学は対抗できない現状がある」と述べました。
 これに対しフロアからは,6年制薬学卒で研究職に就職している実例も指摘されたほか,「基礎分野で薬学卒をほしいといっている大手企業はほとんどない。製薬企業は薬学卒をモノ作りから臨床に近い業務にシフトしている」との指摘もみられました。

他学部との競争に薬剤師免許の有無が影響

 柴﨑氏はまた,このまま4年制薬学の国試受験資格の経過措置が2017年に終了した場合,「2018年度以降に入ってくる学生の水準にも影響するという危機感を持っている。進路を農学か工学か4年制薬学かと悩んだとき,薬剤師免許は(進路選択に)影響があると思っている」との認識も示しました。

職能団体の理解が必要

 柴﨑氏は討論を終えるにあたって,4年制薬学への国試受験資格経過措置延長実現の可能性は限りなく低いと述べ,前提としていた薬学会内での意見統一も「ギブアップ状態」と認め,「日本薬剤師会,日本病院薬剤師会が(経過措置延長を)容認できるか近い将来話しあい,不可能ならエネルギーをほかの方向へ費やしたい」との意向を示しました。一方で,今回の公開討論会で提案された6年制薬学への学士編入などのアイデアもフレキシブルに考えたいとも述べました。

公開で議論するのは画期的

 今回,国試受験資格経過措置延長反対の立場の代表として壇上に立つことになった遠藤氏は討論会後,「これまで密室で議論してきた薬学会が,会頭と一会員が公開で議論をする場を設けたのは画期的。これが一つのきっかけになったのならうれしい」と,今回の公開討論会の成果を述べました。

(取材を終えて)4年制薬学の魅力を早急に示すべき

 今回の公開討論会を通じて,はからずも4年制薬学のアイデンティティを改めて考えさせられることになりました。柴﨑会頭が,創薬・基礎研究を目的とした4年制薬学であっても,他学部との競争に薬剤師免許の存在が必要との認識を示したことは,4年制薬学の抱える問題点を浮き彫りにしたといえるでしょう。創薬を本来の目的にした4年制薬学が,農学・工学などと対抗していくためには,「薬剤師免許」以外の魅力を打ち出す努力も早急に求められるのではないでしょうか。
 薬剤師免許が欠かせないのであれば,医学・歯学同様に薬学も6年制の4年間の博士課程のなかで,どう基礎研究への道を開いていくかという議論が今後必要になると思われます。(MK)

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