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このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.02.06

【Report】電子お薬手帳は薬剤師の仕事を変えるか(2)
情報提供の個別最適化を模索(後)

個人が特定できる情報はサーバーで保管しない

 アインファーマシーズとNTTドコモが2011年7月から3カ月にわたり実施した「電子お薬手帳」の実証実験での,情報管理面について紹介します。
 今回の実証実験では,調剤の内容などお薬手帳に記載するのと同様の情報がスマートフォンに送られます。この送られた情報はスマートフォンに記憶され,サーバーで保管する仕組みにはなっていません。
 その意図についてアインファーマシーズ医薬事業部副事業部長の土居由有子氏は,2点の理由を説明しました。
 一つは個人情報保護の視点。個人情報のなかでも「機微な情報」にあたる医療情報を外部のサーバーに上げるのは,現状ではハードルが高いとの判断です。まだ「電子版お薬手帳」構想でも医療情報保護の仕組みが明確化されていない現状で,リスクを負うだけのメリットはないとの判断でした。
 もう一点指摘したのは,患者が常に情報を携帯する重要性です。2011年3月の東日本大震災では,被災地で携帯電話が利用できるまでに時間がかかりました。サーバーに情報を保管するのでは,いざというときに利用できない,という理由から,今回の実証実験では,端末内に多くの情報を記憶できるスマートフォンが利用されました。

継続的な情報提供の際にサーバーを使用

 ただし,今回の実証実験でもサーバーを利用した情報交換は行われています。前回紹介した「調剤された薬の剤形(一部は製品)に応じた継続的な情報提供」は,スマートフォンから薬剤の情報などを送り,それに応じて外部サーバーから情報が送られました。
 個人情報の保護をどのように行うか,アインファーマシーズと共同研究を行ったNTTドコモフロンティアサービス部医療事業推進担当の佐近康隆氏は,端末情報と個人情報を切り分けることで可能にしたと説明します。
 スマートフォンはNTTドコモが貸与するかたちで行われましたが,そのスマートフォンを誰が使用しているかはドコモ側(サーバー側)では把握していません。ある端末から「こういう薬が1日何回何日分調剤された」という情報をサーバーが受けて,その剤形に応じて情報が送られますが,その端末を誰が持っているかは,アインファーマシーズ側でないとわからないようになっています。
 「今回は実証実験だったので,情報の切り分けが可能でしたが,実用化の際にはスマートフォンを持っている人の連絡先がわからないという状況は,緊急時の連絡手段を確保する必要があるため難しい」(佐近氏)ことから,患者個人のスマートフォンを利用して電子お薬手帳を実用化する際には,総務省の「電子版お薬手帳」の試行などを通じて標準化されるであろう,新たな情報保護の仕組みを取り入れることになりそうです。

●NTTドコモ・佐近氏

QRコードとFeliCaはどちらが便利?

 今回の実証実験では,スマートフォンに調剤情報を転送する仕組みとしてQRコードとFeliCaの2つが試されました。QRコードはスマートフォンのカメラを使って,FeliCaは「おサイフケータイ」用に搭載されているFeliCa機能を使って情報を読み取る仕組みです。
 QRコードはカメラつき携帯電話であれば,ほとんどの端末で読み取れる汎用性の高いものですが,情報量が多い場合はコードをいくつかに分けるか,あるいは規格のバージョンが高い細かなコードにする必要がありますが,バージョンの高いコードでは電話の機種によって読み取れない可能性もあります。今回の実証実験では患者に渡す明細書にコードを印刷するという制約もあり,仕組みを開発するドコモでも調剤する薬のデータ量を見ながら検討を進めました。
 実際に患者が利用した結果では,QRコード利用群で読み取りに失敗する例もあり,FeliCaは読み取りしやすいという評価が多かったそうです。
 ただし,FeliCaは転送用の機器を薬局側で用意する必要があることや,「おサイフケータイ」機能のついたスマートフォンの普及率など,一般化するための課題も残っています。

「ドコモヘルスケア」との関係は

 今回,アインファーマシーズと共同研究したNTTドコモにとって,電子お薬手帳の実証実験はどのような意義があったのでしょうか。
 NTTドコモは2011年12月より,一般消費者向けに「docomo Healthcare(ドコモヘルスケア)」というサービスを開始しました。これは,個人の健康に関するデータをスマートフォンなどを通じて管理するもので,今後展開するサービスの一つに「お薬手帳」も想定しています。この「お薬手帳」には,①処方された薬の服用歴などの記録,②(医療用医薬品,一般用医薬品などの)薬の名称、服用量・回数の記録が可能,という機能が備わっています。
 佐近氏は「(ドコモヘルスケアは)バラバラになっている健康に関する情報を一元的に管理することに価値がある」としつつも,「医薬品を含めた医療情報をサーバーに集める手法はすぐには採らない」と語っています。ドコモが直接患者から医療に関する情報を集めるというよりも,患者と接する薬局や医療機関が情報収集管理の主体となって,ドコモは情報管理の仕組みを提供するというイメージのようです。

●「ドコモヘルスケア」の概要(プレスリリースより)

薬局にとっての電子お薬手帳の意義は

 今回の実証実験では,アプリケーションや情報管理・提供の仕組みはドコモが作っていますが,患者に提供する情報の内容(コンテンツ)はアインファーマシーズが作成しています。システムを開発したNTTドコモでも,コンテンツ作りまで行う考えはないといいます。
 薬局が電子お薬手帳に取り組むことの患者側のメリットは,薬局から調剤情報を受け取るだけでなく,患者の薬物治療に役立つコンテンツを受け取ることになるのではないでしょうか。
 薬局にとっては,近い将来インフラとなる電子お薬手帳を通じて,患者個々の薬物治療の質を向上させる情報提供が差別化のカギになるのでしょう。(MK)

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