ユーザー登録
ID・パスワードを忘れた方はこちら
ご利用について

MagPlus+


MagPlus+イメージ

MagPlus+

このコーナーはMagPlusや雑誌の編集を担当するメンバーによるブログ。誌面だけでは伝えきれない話題をお届けします。

2012.02.04

【Report】電子お薬手帳は薬剤師の仕事を変えるか(1)
情報提供の個別最適化を模索(前)

はじめに

 政府IT戦略本部医療情報化に関するタスクフォースが2011年5月に公表した報告書に盛り込まれた「どこでもMY病院」構想。そのなかで先行して取り組みが進められているのが「電子版お薬手帳」です。調剤に関する情報を患者が携帯電話などに保管し,他の医療機関や薬局に行った際に,その情報を見せられるというもの。紙のお薬手帳にはない常時携帯の便利さなどが期待されています。
 その電子版お薬手帳の試行は,総務省や経済産業省などの実証事業が現在進んでいるほか,これとは別に薬局企業独自の取り組みも進んでいます。今回から数回にわたり,それらの取り組みを紹介し,電子版お薬手帳の有用性や薬剤師業務の質の向上への期待などを探ります。
 第1回と第2回は,電子お薬手帳に,日常的な健康に関する情報と調剤された薬剤に関する情報を追加提供してその有用性を検討した,アインファーマシーズとNTTドコモの共同実証実験を紹介します。

QRコードやFeliCaを使ってスマートフォンに転送

 アインファーマシーズとNTTドコモは2011年7月から3カ月間にわたり,スマートフォンを利用した電子お薬手帳の実証実験を行いました。薬歴システム・レセコンからスマートフォンに情報を送る仕組みは三洋電機の協力を得ました。
 これまで薬歴・レセコンからお薬手帳用シール印刷用に作成していたデータを,スマートフォンにQRコード(二次元バーコード)あるいはFeliCa(非接触型ICカード)の情報転送の仕組みを使って送るというものです。QRコードは患者に渡す明細書のなかに印刷し,患者自身がカメラで撮影します。FeliCaの場合は,窓口の薬歴端末につないだFeliCaリーダー/ライターにスマートフォンをかざすことで情報が送られます。
 送られる情報は調剤内容など紙のお薬手帳に記載する内容となっており,これをスマートフォン内の専用アプリケーションで表示させる仕組みです。
また,付加的な機能として薬や健康に関する一般的な情報を得られるよう,アプリケーション内にGoogleでの検索機能ももたせました。

●電子お薬手帳の情報転送の仕組み(アインファーマシーズ提供)



●スマートフォン用アプリの主な機能(アインファーマシーズ提供)

「その他服用に際しての注意事項」を継続的に提供

 この実証実験がユニークなのは,紙のお薬手帳の情報をデジタル化するだけではなかったこと。電子お薬手帳を利用する患者や保護者に対して,調剤した薬の剤形に応じて関連する情報を継続的に提供し,服薬の支援に役立つかどうかを検証しました。
 実証実験の参加者を大きく2群に分け,調剤した薬に関係ない日常の情報(「熱中症について」など実験期間中に役立つ情報)はどちらの群にも定期的に送り,一方にはさらに調剤した薬の剤形に応じて,関連する情報を投薬初日から10日目まで定期的に送信しました。
 たとえば,ドライシロップ剤が投薬された患者には,飲み方に関する注意事項などが,送られたほか,一部は剤形別ではなく個別の薬剤について,とくに注意喚起するメッセージも送られました。クラリス・クラシッドでは苦味の出る飲み物で服用しないよう注意喚起するメッセージなどです。

●クラリス・クラリシッド服用者に送られたメッセージ(アインファーマシーズ提供)

患者からのフィードバックも

 これら提供された情報について,見た患者から有用性を5段階評価してもらう仕組みも設け,どういった情報が有用と感じられているのかも検証できる仕組みとなっていました。
その狙いについて,実証実験を行ったアインファーマシーズの土居由有子氏(上席執行役員医薬事業部副事業部長)は,「患者の反応をみながら提供する情報を変更するなど,患者にあったテーラーメイド医療を考えた」といいます。そのため送信する情報のなかにはイエス・ノーで答えてもらう設問も用意しました。

調剤に関する問題の早期把握にも可能性

 今回の実証実験後に行ったアンケートによると,薬剤に関する情報の提供に対し「役に立った」が80%,情報提供が「必要」との回答が94%という結果が得られました。また「紙の手帳は忘れがちなので,携帯電話に取り込むのは有効」との声もあったといいます。
 また,今回の実証実験では,イエス・ノーで答える設問を活用すれば調剤した薬や服薬に関する問題点を早期に把握できる可能性も浮かんできました。
 ホクナリンテープが投薬された患者に「はがれないか」尋ねたところ,はがれるという回答が寄せられる例など,これまでは次回来局時に確認していた事項を,より早い段階で確認できたといいます。今回の実験では問題解決のための介入まではいきませんでしたが,仕組みとしての有用性が示唆されます。

継続的に患者とつながるツールとして

 実証実験を通じ,電子お薬手帳について,土居氏は「これはやらなければいけない」と手ごたえを感じたそうです。とくに「窓口の指導を補う代替ツールとしての有用性を感じた」といいます。薬局窓口でのプライバシー確保が難しい現状では,自宅に帰ってからの指導に用いたり,あるいは来局が難しい在宅高齢者とのコミュニケーションツールとしての利用も見えてきたと語っています。(MK)

●左から今回の実証実験に携わった土居氏,月岡良太氏,神宮寺秀幸氏
会社案内
利用規約
お問い合わせ